なぜ短頭種は飛行機に乗れないか

獣医師。酪農学園大学獣医学部卒業後、神戸の動物病院で4年ほど勤務し、命の重みを毎日痛感。結婚後移住した北海道の町には小動物の病院がひとつも無いという、このご時世大変びっくりな展開を経験する。現在新種の生物(息子)と格闘しながら、将来臨床への復帰を目指して再勉強中です。地域の子供達と動物の健全で安全な触れ合いの時間を作ることが、学生の頃からの密かな目標。・・ただの動物好きなので、いろいろな動物に関することを幅広く書いていきたいと思います。

夏ですね。最近ではペット同伴可の施設も増えていますし、お家のワンちゃんも一緒に家族旅行を計画されている方も多いのではないでしょうか。飛行機を取ろうとしたら、ん?夏場は短頭種お断り・・?

航空会社によっては、夏場に短頭種の預け入れが出来なかったり、通年ブルドッグやフレンチブルドッグの受け入れを中止しているところがあります。2007年から中止されたこの短頭種の預かり、ANAのサイトには

毎年6月1日~9月30日は、他の犬種と比較して高温に弱く、熱中症や呼吸困難を引き起こすおそれのある 「短頭犬種」のお預かりを中止させていただいております。上記期間以外でも、気温が高い日のお預けには十分にご留意ください。

とあります。

知る人ぞ知る、という内容ではありますが、私もハナペチャ族愛好家(?)として、今回はなぜ短頭種が飛行機乗り入れ禁止になっているのかを解剖学的にお伝えしようと思います。

そもそも短頭種って・・

短頭種は頭蓋骨の長さに比べ鼻の長さが短くなるような骨格をしています。ブルドッグなどは闘犬目的で、ペキニーズやシーズーなどは愛玩目的で品種改良が重ねられてこのような面持ちになりました。骨格が前後方向にペチャッとしただけで鼻や喉周辺の柔らかい組織(軟口蓋や喉頭)は変わらず発達しているため、ある意味狭い空間の中にお肉を無理やり詰め込んだような形態になっています。

とにかく狭窄の連続な短頭種

そのような形態のため、種や個々によって程度に差はあれ短頭種は気道が狭窄の連続になっています。

まず、鼻の入り口(鼻孔)。その違いは一目瞭然です。

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次に鼻前庭。(人では鼻毛の生えている場所!)犬の鼻前庭は人のように広くなく、私たちで言う小鼻の部分がとても分厚くなっていて内腔の大部分が満たされており、短頭種ではさらにその隙間が狭くなっています。

そこから奥につながる鼻甲介は血管に富んだ粘膜で被われていて、そこを空気が通り抜けることにより体温調節などをするのに大切なところ。通常は適度に空気が通り抜け効率良く機能するはずが、短頭種は御多分に洩れず鼻甲介が厚くなっており、場合によっては道を塞ぐほどに拡大している場合があります。人が鼻づまりを起こした時にはこの鼻甲介が腫れて鼻呼吸がし辛くなるようですが、炎症の有る無し・程度はさておき短頭種ではナチュラルに鼻づまりを起こしている状態と言えるでしょうか。

さらにのどにあたる咽頭・喉頭では軟口蓋過長や肥厚、喉頭虚脱が起きていることもあります。(ついでに口の大きさに比べて舌が大きすぎ、厚すぎというおまけ付き。)

狭窄はのどで止まらず気管まで続く場合があります。パグでは気管の軟骨が軟弱であり、フレンチブルドッグでは気管の直径が極端に小さく、硬いという特徴があります。

以上、書いていてちょっと悲しくなってしまうほどに、空気抵抗のオンパレードの特徴を彼らは持っているのです。

これらが飛行機に乗れない理由に

犬はハッハッハッという浅速呼吸(パンティング)をすることがよくありますが、この時空気は口だけでなく鼻も通っており(鼻から吸って口から吐いている)、血液に富んだ粘膜をもつ鼻甲介を通る時にその空気の温度を下げるという重要な働きをしています。

ということは、全体的に空気の通り道の狭い短頭種ではこの“空気を冷やす”という作業が上手くいかない・・ということになり、短頭種が熱中症になりやすいというのはこういったところから説明がつきます。

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さらに気道の半径が半分になると、抵抗が16倍に上昇する計算になるので、気管の直径が極端に小さいフレンチブルドッグはそれを補おうとして他の犬種より容易に努力性呼吸になってしまう・・ということです。

たとえ“家族”と言えども飛行機に乗る時には手荷物として預けなければならない動物たち。その手荷物の空間の中で(たとえ安全性に配慮があるとしても)キャリーに入ってそれなりの時間過ごすとなると、解剖学的に気道の狭窄を持つ短頭種にとってはリスキーであることがわかります。

見た目もコミカルで人気のある短頭種ですが、こういった特徴を持っていて時には一緒に出かける事が出来ない場合があり、熱中症など他の犬種よりさらに気を付けるべき点があることは一緒に暮らす上で知っておきたいですね。

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