【その3】犬のバベシア症(を、マダニが解説します)

獣医師。酪農学園大学獣医学部卒業後、神戸の動物病院で4年ほど勤務し、命の重みを毎日痛感。結婚後移住した北海道の町には小動物の病院がひとつも無いという、このご時世大変びっくりな展開を経験する。現在新種の生物(息子)と格闘しながら、将来臨床への復帰を目指して再勉強中です。地域の子供達と動物の健全で安全な触れ合いの時間を作ることが、学生の頃からの密かな目標。・・ただの動物好きなので、いろいろな動物に関することを幅広く書いていきたいと思います。

こんにちは。僕、フタトゲチマダニの若ダニです。
母上が、バベシア症についてあまり語らずに往生してしまったとのことで、息子である僕が代わりに述べ・・え?訛っていない?なにせ、運良く寄生したお犬様が東京からの旅行中だったみたいで、あれよあれよという間に運ばれてしまって、今割と東京都心部に近い所で過ごしているのです。
そういうわけで、母上から受け継いで僕が媒介してしまったかもしれないバベシア症について、お話ししたいと思います。

バベシア症とは?

バベシア症というのは、Babesia(バベシア)属の寄生虫が原因となる病気です。

寄生虫といっても、それはそれは小さな原虫と呼ばれるものです。
どれくらい小さいかというと、2〜4μm、少し大きな種類でも7μmというところです。こんなに小さいやつが、僕らマダニに媒介されて、犬の赤血球の中に寄生します。そして赤血球内で分裂して、増殖します。
どのような姿かは、少し下にあるイラストをご参照ください。(ちょっとわかりにくいです。)

日本では西日本を中心にバベシア・ギブソニーというのがはびこっていて、沖縄なんかだと、バベシア・カニスというやつもいるみたいです。
バベシア・カニスの病原性はそんなに強くなくて、バベシア・ギブソニーはなかなか強い、そんな風に聞いております。

どんな症状が出る?

この小さな小さなバベシアたちが赤血球内で分裂するので、赤血球が破壊されて貧血を起こします。
こうして直接赤血球が壊れるだけでなく、体の免疫系が頑張ってしまって、免疫介在性にも壊されてしまう場合があります。そして40〜41℃の高い熱が出ます。
貧血になると歯茎だとか、眼(まぶたの裏)の粘膜が蒼白してきます。勿論こんな状態だと元気や食欲もなくなります。
赤血球が壊されて起こる貧血は溶血性貧血というのですが、壊れた血球から溶け出した色素が尿の中に出て変な赤っぽい橙のような色になったり(ヘモグロビン尿)、肝臓でその色素からビリルビンが大量に作られ、その排泄が追いつかなければ黄疸が出てきます。
バベシア抗原に反応して脾臓中のリンパ球の数が増えて脾臓が腫れたりなんかもします。
死亡率は10%〜20%、症状が急性に進むか慢性に進むか、貧血の度合いにも寄ります。

バベシア症かもしれない・・診断は?

マダニの吸血歴や症状である程度の判断は付きますが、血液を薄く伸ばして染色したスライドを顕微鏡で見てバベシア原虫がいるのを確認したり(染色するのに少し時間がかかります)、検査機関でバベシア原虫の遺伝子を測定したりして確定します(これも時間がかかります)。

babesia

バベシア症だったら・・治療は?

『これで、血球中のバベシア原虫、一掃しまっせ!!』という薬は、残念ながらありません。
牛用のガナゼックという薬が有効とされていますが、犬には強い副作用を示すことがあるので、慎重に投与する必要があります。
症状に対する治療を(貧血がひどければ輸血なども)行いながら、バベシア原虫に感受性のある抗生剤を使って抑えていくことになります。
もし治療が順調でも、症状が改善するのに1〜2週間かかり、2ヶ月ほどで一旦治療終了、となる場合が多いです。
ただ、症状がみられなくなってもバベシア原虫は体内から消えることはなくて、何かの拍子(ストレスがかかったときなど)にまた増えだすことも十分あるので要注意です。

マダニからの虫(忠)告

そういうわけで、僕も母上からのお人(マダニ?)好しの血を受け継いでしまったので、重々とお伝えします。
僕らにバベシア症を媒介されたくなかったら、ワンちゃん、予防してあげてください。
バベシア・ギブソニーは西日本だけでなく、東日本や、関東以北でも自然感染が確認されています。
これからまた、もーっと、広がっていくかもしれませんね。
それでは、僕はそろそろ成ダニになろうと思います。
さいなら。

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